華厳経のイメージとしての花の代表は、何と言っても蓮の花でしょう。 蓮華蔵世界は、風輪によって支えられている香水海に咲く巨大な蓮華の中にあるといわれています。 そこで電脳から美しい蓮の花を引き出すことに、執着することになるのです。 ただし現実の世界の蓮の花によく似た花を引き出すつもりはありません。 表面的な形状を精密に表現するのならデジタルカメラがあるからです。そこで人間の心の中にあるイメージに共通するようなもので、かつ簡単には思いつかない新鮮みのある画像を生み出したいのです。
「華厳経の花の意味」 の追記で少し触れたように、風輪すなわち「渦」によって支えられている「蓮華」は、電脳で「華厳経の風景」を生み出すときの原理にまつわる象徴的な構造で、これが「主題」と言っても差し支えないのです。
実は、この「蓮の花」と「渦」の組み合わせについての現実の世界での歴史は、さらにさかのぼります。 立田洋司 著「唐草文様」((株)講談社、1997年1月)によると、これがいわゆる唐草模様の原型になるとのことです。
ロータス(睡蓮)は、古代エジプトで植物文様として、 紀元前3000年頃から既に用いられていたそうです。そして「渦」の中心部分に「蓮華」を配した「ロータス嵌入型(かんにゅうがた)渦文」は紀元前2100年頃のエジプト壁画の装飾文としてありました。驚いたことは、これらの文様は自然の植物をそのまま写し取ったものではなく、人間の心象による造形物なのです。
そしてこの「渦」すなわち「螺旋」は、現代の自然科学「フラクタル」の基本パターンであり、これによって「華厳経の風景」の花が生まれたのです。