相即・相入/事事無礙(じじむげ)

相即・相入/事事無礙(じじむげ)

基本的な自己相似集合(フラクタル)の作り方

いま「一つの円の内部に五つの同じ半径の円を入れる」ことを考えます。

一つの円の半径も五つの円の半径も任意とすると、互いの円の輪郭がさまたげ合わないように入れるには、下図のように五つの円の半径は、一つの円の半径の 1/3 以下に縮尺する必要があります。この条件さえととのえば、一つの円の内部は空ですので、五つの円を入れるのにさまたげにはなりません。

図、円融無礙(?)

図1 + 図2 = 図3
華厳思想 ⇒ (あるもの)
(他のもの)
(相即・相入の構造)
フラクタル ⇒ (生成素)
(初期形)
(一重のフラクタル)

この図の関係は、文献(1)の十玄縁起無礙法門義(じゅうげんえんぎむげほうもんぎ)について記されている章の「相即・相入の構造」の記述(下記)と明確に対応できます。

「あるものと他のものとの関係が成立する場合、これを体の関係の「相即」から見ると、あるものが有であるなら、他のものが無自性・空であり、あるものに全面的に即する(一つになる)ということになります。そしてこれを用の関係の「相入」からみると、あるものは他のものに入るということになります。」


次に最も簡単なフラクタル構造の作り方は、 図の生成素(ジェネレーター)と呼ばれる図形を、初期形(イニシエイター)と呼ばれる図形の領域に一致するように縮尺して入れ込みます。図の例では一回入れ込んだので、一重(反復回数1)のフラクタルです。さらにこの内部の五つの円のそれぞれの内部に生成素(ジェネレーター)を縮尺して入れ込むと、二重(反復回数2)のフラクタルということになります。ここに展示した画像は、背景としての高度のフラクタルによる花の中央に、図の三重(反復回数3)のフラクタルを入れ込んだものです。

これらは、一つの円の中に五つの円が入り、さらに五つの円のそれぞれの中に五つの円が入るという繰り返し構造です。これは自己相似集合(フラクタル)です。ここで自己とは生成素(ジェネレーター)を意味します。

以上のように、「相即・相入」は、基本的な自己相似集合を作るときの手法に対応します。そしてこの自己相似集合は、 事事無礙法界に対応すると思われます。

なお、図において、いく重にも反復を繰り返しますと、普賢菩薩が蓮華蔵世界について語る偈文(げもん)「一つの毛孔のなかに、無量のほとけの国土が、装いきよらかに、広々として安住する。」文献(1)を実現できます。このときの毛孔に相当する微小部分を顕微鏡で拡大したときに見ることのできる構造は、 展示した画像の花の中央の「三重のフラクタル」と全く同じものです。

これは当然のことなのですが、文献1で指摘している良寛の歌、「あわ雪の中に立てたる三千大千(みちおおち)またその中にあわ雪ぞふる」と同じ意味です。良寛は天才的な頭脳を持っていたようです。